焼きおにぎり

"おむすび"というとそこはかとなく郷愁を覚える方も多いのでは。日本人のソウルフードといって過言ではありません。

かの辻嘉一さんの著書、婦人画報社刊『懐石傅書』は昭和44年に初版が刊行されて以来、今も料理史に残る名著として多くの支持を集めています。全七巻のうちの一巻が『ご飯と味噌汁』。この中でおむすびについてかなりの頁を割いておられますが、ほんの一部をご紹介します。

「流行の握り飯が流行する所以は、その軽便食事という一点によって流行するのです。しかし、おむすびはただ単にその軽便さの故に、私たちの食事の中にあったのではないということを忘れてはなりますまい。おむすびは指先でつくるものではなく、掌と掌をぴったり密着させる心持ちで、御飯の粒がむすばれるようにつくるのです。掌と掌をあわせるとき、それを神仏に対する敬虔な拍手、合掌などに通じるものがあります。愛するものたちへ、母がこころをこめておむすびをつくるとき、この合掌という動作を通じて、おのずから敬虔の念が母の胸中に去来しただろうことを見逃すことはできません(原文のまま)」と述べ、さらにむすびは産巣日とも産霊とも書き、万物を生みなすという意味があることを指摘。

つまりおむすびの精神性に注目しておられるわけです。おむすびに母性を見いだすところに辻さんならではの料理観を感じます。

さて、基本は塩むすび。炊き立てのご飯に粗塩をまぶして結び、人肌くらいに冷めたところをかぶりつくと、まさに母の懐に帰ったような気がします。

焼きおむすびも同様にノスタルジーを誘われますね。そこでちょっと小粋な焼きおむすびはいかがですか。

八方美人の登場です。といってもご飯の真味を損なうことはありません

いわば背景に徹してご飯の持ち味を活かす技ありの一手。これこそが八方美人の独壇場なのです。

〈材料〉
お米 2合
水 440ml
八方美人 50ml
天然塩 少量

〈作り方〉
1 米を研いでザルに上げる。

2 洗った米に通常の水加減をし、少量の天然塩と八方美人を加えて(水の量の1割強を目安にお好みで加減)炊く。

3 適当な大きさのおむすびを結ぶ。

4 オーブントースターかテフロンフライパンで表面がパリッとなるまで焼いたら、八方美人をハケで2〜3回塗って乾く程度に焼けばできあがり。

※補足
・焼き上がったおむすびに魚沼南蛮を振っても別趣の味わいに。酒宴の締めにも格好です。
・米は研いだら15分ほどザルに上げて、表面の水を吸わせることでムラなくしっかり炊き上がります。